ナノ加工 技術コラム

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2026.10.29

金型無しで樹脂レンズの試作ができる?超精密切削加工技術の発展

レンズの試作品を製作する際、まず金型を製作することを前提に考えている方は多いのではないでしょうか。実際、かつては数個の試作レンズが必要なだけであっても、金型を製作し、成形することが一般的でした。

しかし現在では、超精密切削加工によって樹脂の素材から直接レンズを削り出すことが可能になり、試作の段階で金型を用意しなくてもよいケースが増えています。

そこで今回は、金型無しで試作レンズを直接切削できるようになった経緯とそのメリットについて、詳しくご紹介します。

かつては、レンズの試作には金型が必要だった

樹脂レンズは一般的に射出成形で製作されます。射出成形は金型に樹脂を流し込んで形をつくる製法のため、これまではレンズを1個試作するだけでも、まず金型を用意する必要がありました。

さらに、試作金型の製作には高い精度が求められます。成形品のレンズ面は金型の形状がそのまま転写されたものであり、レンズの光学性能は金型の精度で決まるからです。そのため試作であっても、量産用と同等の精度で金型を仕上げなければなりませんでした。

量産を前提とするなら、この進め方は合理的です。一度金型をつくれば、同じ品質のレンズを安定して大量に供給できるからです。しかし試作金型の製作には、次のような負担が避けられませんでした。

  • 評価用に数個しか必要ないのに、量産と同じように金型を製作しなければならず、かなりの初期費用(イニシャルコスト)が必要
  • 金型の設計・製作・成形トライに期間を要するため、最初の1個を手にするまでに時間がかかる
  • 評価の結果、形状変更が必要となった場合、金型の修正や場合によっては再製作が必要である
  • 複数の仕様を比較検討したい場合には、仕様の数だけ金型が必要

開発の初期段階ほど設計は固まっていないにもかかわらず、形状を確かめるには先に金型を製作しなければならない。この制約が、レンズ開発のスピードとコストを押し上げる要因となっていました。

金型レスで樹脂レンズの試作ができる超精密切削加工の技術の発展

樹脂レンズの多くは、超精密切削で仕上げた金型に樹脂を流し込む射出成形でつくられています。金型の段階で、すでにレンズ面に必要な精度で削り出せているのであれば、理論上は樹脂レンズそのものも直接削り出せるはずです。

しかし、かつては切削加工で成形されたレンズと同等の品質を直接削り出すことは難しいと考えられていました。レンズ面には、ミクロン以下の形状精度と、光を散乱させないナノオーダーの表面粗さが同時に求められます。金属の金型を削る技術と、樹脂レンズを削る技術は同じではありません。樹脂は金属に比べて柔らかく熱にも弱いため、切削時の熱や刃先の押し付けによって変形やむしれが生じやすく、金型と同じ考え方では、この2つを両立させることができなかったのです。

この課題を解決したのが、超精密切削加工技術の進歩です。主に次の3つの要素が揃ったことで、超精密切削加工によるレンズ製作が現実的な選択肢となりました。

①樹脂に合わせた加工条件の確立

金属の金型を削るときと同じ条件で樹脂を削ると、切削熱によって表面が溶着し、狙った面が得られません。樹脂は金属に比べて熱伝導率が低く、発生した熱が逃げずに刃先の周辺にとどまってしまうためです。切削速度や切込み量、送り量を樹脂の特性に合わせて設定し、発熱そのものを抑える加工条件が確立されたことで、溶着やむしれを生じさせずに鏡面加工できるようになりました。

②樹脂専用の治工具の使い分け

樹脂は金属と比較して柔らかいため、金属と同じようにワークを強く締め付ければ、その力だけで変形してしまいます。加工中にワークが動かず、かつ変形も起こさない保持方法が求められます。あわせて、刃先形状やすくい角も樹脂に適した仕様を選ぶ必要があります。こうした治工具を樹脂用に使い分けることで、安定した加工が可能になりました。

③切削に適した光学樹脂の普及

COPやCOCのように、吸水による寸法変化が小さく、切削時に粘り気が出にくい光学樹脂が普及したことで、削り出しであっても狙った形状と面粗度を得やすくなりました。

『超精密加工の特徴や加工精度』や『各樹脂材料の特性比較』については、以下記事でも詳しくご紹介しています。

>>超精密加工とは?加工の特徴や注意点について解説

>>超精密加工に用いられる主な樹脂材料の特性と比較

超精密切削加工で樹脂レンズの試作を行うメリット

超精密切削加工による樹脂レンズの試作には、次のようなメリットがあります。

①金型費をかけずに試作できる

金型を製作する必要がないため、評価用に数個だけ必要な段階でも、金型費という大きな初期投資を負担せずにレンズを入手できます。

②スピーディーに試作できる

金型の設計・加工・成形トライという工程を経ずに、材料から直接削り出すため、最初の1個を手にするまでの期間を大幅に短縮できます。

③設計変更に対応しやすい

超精密切削加工では加工プログラムによって形状を決めているため、曲率やコバ厚を見直す場合も、プログラムを修正して削り直せば対応できます。金型の修正や再製作にかかる費用と時間が発生しません。

④複数の仕様を比較できる

曲率違いや厚み違いといった複数の案を、仕様ごとに金型を用意することなく製作できます。実際に測定・実装したうえで比較できるため、設計の方向性を早い段階で絞り込めます。

なお、金型を起こして試作する場合と超精密切削加工により試作する場合を比較すると、下記の通りとなります。

金型無しで樹脂レンズの試作ができる?超精密切削加工技術の発展 | 超精密 微細加工.com

※必要数量に対する金型製作の要否はレンズの形状や大きさによって異なりますので、個別にお問い合わせください。

量産を見据えるうえでの注意点

一方で、超精密切削加工による試作には、押さえておきたい点もあります。

試作品と量産品では、成形時の収縮や複屈折といった成形品特有の光学特性が変わるため、削り出し品の評価結果がそのまま量産品に当てはまらない場合があります。また、形状やサイズ、材料によっては加工が難しいケースもあります。量産へ移行する際には、あらためて金型の製作が必要になる点もご留意ください。

まとめ

かつてレンズの試作は金型を製作することが前提でしたが、樹脂に合わせた加工条件と治工具、そして切削に適した光学樹脂が揃ったことで、金型を介さずにレンズを削り出せるようになりました。金型費をかけずに、短期間で、設計変更にも柔軟に対応しながら試作を進められます。

超精密 微細加工.comを運営するジュラロン工業株式会社では、光学プラスチックレンズの設計・試作・成形から金型製作までを一貫して手掛けてきた経験をもとに、レンズの超精密切削加工にも対応しております。超精密切削加工で試作を進めるべきか、金型を製作すべきかといった段階からのご相談も承っておりますので、お気軽にご相談ください。

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