ナノ加工 技術コラム
ナノ加工 技術コラム
2026.07.16
超精密加工における振動切削とは?
目次
光学レンズ金型や精密ミラー等の製造において、ナノレベルの形状精度(PV)や表面粗さ(Ra)を達成するためにはダイヤモンド工具を用いた超精密切削加工が不可欠です 。しかし、一般的な金型材料である鋼材系材料を加工する場合、通常の切削加工ではダイヤモンド工具をそのまま使用することはできません 。
そこで対応可能な加工方法が「振動切削」です 。本記事では、なぜ通常の切削では鋼材が削れないのかという理由をはじめ、振動切削のメリットやデメリット、無電解ニッケル-りんめっき加工との使い分けについて解説します。
そもそも「振動切削」とは?普通の切削との違い
通常の切削加工と振動切削の最も大きな違いは、工具に微細な超音波振動を加えているかどうかという点にあります。通常の切削では工具がワークに接触し続けたまま削るのに対し、振動切削では工具が周期的にワークから離れながら削るため、両者が接触している時間が短くなります。その結果、切削熱の発生が抑えられ、工具摩耗も大きく低減します。
ここでは超精密加工を前提とし、工具にダイヤモンドバイト、ワークに鋼材を用いる場合を想定して説明します。
普通の切削
刃物が常にワークに接触した状態で進みます。ダイヤモンドの成分は炭素(C)です 。鋼材に対して通常の高温・高圧な連続切削を行うと、鋼材の中の炭素とダイヤモンドの炭素が激しい化学反応を起こします 。これにより、ダイヤモンド側の炭素が鋼材側へと溶け込んでしまう「拡散摩耗」が発生します 。どれだけ硬いダイヤモンドでも鋼材に触れて熱を持つと溶けるように摩耗してしまうため、通常の超精密加工では鋼材を直接削ることができません 。
振動切削
一方で振動切削は、工具に対して切削方向に微細な高周波振動を付加しながら切削を行う加工方法です。刃先がワークに対して「切削」と「非接触」を極めて短い周期で繰り返し、熱の発生を抑えることで鋼材を削ることができます。
ただし、どのような鋼材系材料でも削れるわけではありません。安定した超精密加工を行うためには、材料側の「炭素含有量が0.7%以下」という条件を満たしている必要があります。炭素含有量がこの数値を超える鋼材系材料では、拡散摩耗の進行を抑えることが難しくなります。
振動切削のデメリット
振動切削はダイヤモンドバイトで鋼材を切削加工できる画期的な手法ですが 、デメリットも存在します。
振動切削は、工具を微細に往復運動させながら少しずつ削り進める加工のため、単位時間あたりの切削量を大きく取ることができません。通常の切削加工と比較した場合、その加工速度は「3分の1以下」にまで低下します。
加工時間という課題を解決する無電解ニッケル-りんめっき加工
このように振動切削には「加工時間がかかる」というデメリットがあるため、当社の超精密加工では、鉄系材料を直接削る代わりにワーク表面に「無電解ニッケル-りんめっき加工」を施し、そのめっき層をダイヤモンド工具で高速かつ高精度に切削する方法を採用するケースが多いです 。しかし、このニッケル-りんめっきにもデメリットはあります。
高温環境下におけるクラックリスク
最終製品が「高温環境下」に晒される場合は注意が必要です。ベースとなる鉄系材料とめっき層との間で熱膨張差が生じ、めっき膜にクラック(ひび割れ)が発生するリスクが高まります。このような過酷な熱環境下で使用される製品においては、めっきを介さずに直接削り出す必要があります。ここで、加工時間のデメリットを受け入れてでも「振動切削」を選択した方が良いとの判断になります 。
まとめ
鉄系材料への超精密加工を成功させるためには、製品の最終的な使用環境を見極めることが重要です。通常の納期を重視するなら無電解ニッケル-りんめっき加工を第一候補とし、高温下での信頼性を担保しなければならない部品であれば振動切削を選択するという、適切な使い分けが求められます。
今回は、振動切削についてご紹介しました。超精密微細加工 .comを運営するジュラロン工業株式会社では、振動切削の豊富な実績がございます。お困りの方はお気軽にご連絡ください。
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