ナノ加工 技術コラム
ナノ加工 技術コラム
2022.06.29
ミクロン単位の超微細溝加工を施す方法
超微細溝加工の定義と用途
超微細溝加工とは、ミクロン単位のピッチの溝をサブミクロンの精度で加工することを指します。下記画像は実際に当社が超微細溝加工を施した事例となり、ピッチ20μm矩形溝で、深さ1.4μmかつ位相段差をシャープなエッジにて加工したものです。溝の位相(位置)を部分的に変えることで、回折光の波面位相を調整する回折格子として使われます。サブミクロン以下の精度で溝の位相を変えることで、正確な波面位相の調整を実現しています。
こうした超微細の矩形溝やV溝の連続形状はしばしば回折格子と呼ばれます。これらに白色光を当てると分光し、見る角度によって色が変化します。下記画像の先端部分の様々な色は、塗料で着色したものではなく、4つの領域には約400nmから600nmの異なるピッチの回折格子が形成されており、それにより光を分光させることで現れた色です。
超微細溝加工は一般的な工具では実現できない
超微細溝加工を行うために用いる刃物は、超硬やハイスなどの一般的なものではなく、特別なものが必要とされます。これは一般的な刃物の刃先は一見鋭利に見えますが、顕微鏡などで拡大すると決して鋭利にはなっておらず、このような刃先ではナノレベルの加工を実現できないためです。したがって、刃先を鋭利に仕上げることができるダイヤモンドバイトを使用する必要があります。また、このダイヤモンドバイトの形状も、溝の形状とサイズに合わせた特注のものを製作しなければなりません。加工する溝が溝幅5μmの矩形溝であれば、刃幅が5μm以下の矩形のダイヤモンドバイトを製作しなければならないということです。溝の形状によって用いられる加工設備も異なります。例えば、フレネルレンズのような回転対称の溝であれば超精密旋盤を、直線の溝であれば超精密5軸加工機を用いる必要があります。入り組んだ交差溝であれば、ダイヤモンドエンドミルを用いることもあります。
超微細溝加工が可能な材質は限られる
前述の通り、加工の際にダイヤモンドバイトを使用する必要があるのですが、このダイヤモンドバイトで削ることができる材質は限られ、鋼材を直接加工することはできません。これは鋼材の炭素とダイヤモンドの炭素の化学反応による化学摩耗とよばれる摩耗が発生してしまうためです。なお「振動切削」という加工方法もありますが、超微細溝加工においては、振動切削を用いても刃物の摩耗が急速に進んでしまうためで、現実的ではありません。
これらの理由から、ダイヤモンドバイトの摩耗を抑えるために、Ni-Pめっきの上から加工を行う必要があります。
【関連記事】なぜ超精密加工品には無電解ニッケルめっきが施されるのか?
切削による溝加工とフォトリソグラフィによる溝加工の違い
超超微細溝加工を施す方法として、切削による加工方法を解説しましたが、それ以外にもフォトリソグラフィという方法が存在します。これは、フォトマスクやエッチングを駆使して微細な溝加工を施す方法で、ウエハなどを製作する際に用いられています。最小幅30nm程度(1nm = 0.001μm)の微細な加工を施すことが可能なため、加工可能な溝幅においては切削に勝りますが、エッチングにより素材を加工するという特性上、シャープエッジを実現するのは難しくなります。一方、切削による超微細溝加工では、超精密ダイヤモンドバイトを使用することにより、シャープエッジを実現することが可能です。
ただ、切削で溝幅が5μm以下の矩形溝を加工しようとすると、使用するバイトの幅が小さく、非常に繊細なため、加工速度が遅く、耐久性も劣るためコストが大幅に膨らんでしまいます。そのため、5μm以下の溝幅は超微細溝加工では難しいものとなっております。
以上のことを踏まえ、切削とフォトリソグラフィを比較すると、下記の通りとなります。
切削 | フォトリソグラフィ | |
特徴 |
・シャープエッジの実現が可能 ・マスクレスで試作期間が短く、フィードバックを素早く行える ・斜面や曲面の形成がしやすい |
・最小幅30nm程度の溝を形成できる ・フォトマスクの仕様が固まれば量産が容易 ・複雑な回路などの形成に向いている |
溝幅 |
・矩形 5μm以上 ・V溝 最小ピッチ0.3μm |
・矩形 30nm以上 ・V溝 グレースケールマスク(非常に高価) |
まとめ
ここまで超微細溝加工について説明してまいりました。
ミクロン単位の溝加工が可能な超微細溝加工は、回折格子をはじめとする様々な製品に用いられています。ただ、超微細溝加工を行う際は、Ni-Pめっきを施す必要があり、溝形状に合わせた特注のダイヤモンド工具を製作する必要があります。
最新の各種ナノ加工機に加えて、高度なナノ加工技術と加工プログラム技術で、ナノオーダーの超微細加工のご要望にお応えすることが可能ですので、是非お気軽にご相談ください。
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