
ナノ加工 技術コラム
ナノ加工 技術コラム
2025.09.22
加工性とレンズ効率を考慮したフレネルレンズ金型の設計ポイント
フレネルレンズは、多岐にわたる分野で使用されていますが、その微細で複雑な形状ゆえにフレネルレンズを製作するためには超精密加工技術が必要になります。本記事では、フレネルレンズの特徴から加工性とレンズ効率の双方を考慮した設計ポイントについてご紹介します。
フレネルレンズの特徴
通常のレンズは、光の進む向きを変えて集光したり、拡散させたりするために球面、非球面や自由曲面などが形成されています。しかし、フレネルレンズは同心円状にレンズを分けて、段差を付けることで薄型、軽量化を実現し「光を曲げる」という機能を残しながら不要な厚みを除去することができます。また、通常のレンズでは実現が難しいような大口径のレンズも、フレネルレンズであれば比較的容易に製造できる場合があります。
用途としては、プロジェクターや照明、VR/AR関連など薄型、軽量という特徴と光を集光、拡散することができる特徴から多くの分野で使用されています。
加工性とレンズ効率の考慮したフレネルレンズ金型の設計ポイント
フレネルレンズは、加工性とレンズ効率を考慮し、設計を行う必要があります。下記にフレネルレンズの設計におけるポイントをご紹介します。
①:レンズ効率を考慮して溝ピッチを設計する
フレネルレンズの加工には、先端にRのついたダイヤモンドバイトで加工する必要があります。そのため、フレネルレンズ金型の山部、谷部には、一定のRがつきます。
つまり、溝ピッチが細かいと、コーナーRが増えることになり、レンズ効率の低下を引き起こします。反対に、溝ピッチが荒いと、コーナーRが減り、レンズ効率はUPしますが、レンズの厚みが必要となります。
そのため、求められるレンズ効率を考慮したうえで、溝ピッチの大きさを設定する必要があります。
ピッチが増えると加工R(青色)の割合が多くなるため、レンズの性能が落ちます。
②:底コーナーRをできるだけ許容する
フレネルレンズの光学面の超精密加工では先端にRの付いたダイヤモンドバイト(工具)を使用する必要があり、フレネル谷部にダイヤモンドバイトのRが付いてしまいます。
ダイヤモンドバイトのRを大きくすると、加工時間が短縮されますが、谷部のR領域が大きくなりレンズ効率は下がります。逆にダイヤモンドバイトのRを小さくすることで、レンズ効率を確保できますが、加工時間が長くなります。
そのため、加工性とレンズ効率がトレードオフの関係であることを理解したうえで設計する必要があります。
青色部分が加工Rで光学面の損失が発生します。
③:溝の形状に角度を持たせる
超精密加工に使用されるダイヤモンドバイトは、耐久性を考慮すると、30°以上の先端角度が必要となります。
この角度があることで、フレネルレンズの溝形状によってはダイヤモンドバイトがフレネル段差の谷部へ入り込めず、加工不良の原因となることがあります。
そのため、上記を鑑みてレンズ面とフレネル段差の立壁が成す角度を最低でも40°以上設けることが望ましいです。レンズ設計として、最大角度50°以上となる場合は、立壁にその分の抜き勾配を設定するなどの対応が必要になる場合があります。
フレネルレンズ金型の加工事例
フレネルレンズ金型
こちらは、Ni-Pめっき面にフレネル形状を加工したVRレンズ用金型です。レンズの光学効率を最大限に引き出すため、金型底部のコーナーRを可能な限り小さく仕上げることを目的に製作しました。一般的に、ダイヤモンドバイトの先端Rを小さくすれば細かなRの加工が可能ですが、その一方で全面の鏡面性を維持することが非常に難しくなります。当社では、ダイヤモンドバイトの形状設計および加工条件の最適化により、コーナーR=2μm、表面粗さRa=2nmという高精度かつ高品位な仕上がりを実現しています。
レンズ金型の超精密加工は当社にお任せください
今回はフレネルレンズ金型を製作するための超精密加工技術についてご紹介しました。ジュラロン工業株式会社では、ナノ精度の超精密加工品・微細加工品の加工を得意としており、多くの加工実績がございます。ぜひお気軽にご相談ください。
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